住居内での室内空気汚染に由来する様々な健康障害を総称して、シックハウス症候群と呼びます。
住宅の高気密・高断熱化 が進み、新建材 と呼ばれる化学物質を含有した建材を多く用いたことにより、室内空気が化学物質などに汚染され、そこに住まう人の健康に悪影響を与えてしまうようになりました。
シックハウス症候群は原因も症状も多種多様で、ひとつの原因やひとつの症状、ある一面からの定義だけでは正しく理解することができません。
発症のメカニズムなど、まだまだ未解明な部分も多くあります。
また、最近では、学校の室内空気汚染による健康障害として「シックスクール」も問題化しています。
シックハウス症候群というと、新築やリフォームをしたときだけの問題で、住宅を建てるときに使用される建材からの化学物質だけが原因と思われがちですが、建材以外にもカーテンやじゅうたん、家具などから揮発する化学物質や、日常生活用品、ダニやカビなど様々な原因によって室内空気が汚染されています。
シックハウス症候群の要因には以下のようなものが挙げられます。
①建材から揮発する化学物質
化学物質を含有・添加した新建材が多用され、そこから揮発する化学物質によって室内空気が汚染されています。
壁紙、接着剤、合板、塗料などあらゆる建材が室内空気汚染の原因になっています。
シックハウス症候群の主な原因と言われています。
②家具などから揮発する化学物質
じゅうたんやカーテン、家具からも化学物質は揮発しています。接着剤や難燃剤、防虫剤など様々な化学物質が用いられています。
③換気不足
住宅の高気密・高断熱化が進みましたが、換気対策が遅れたために、室内空気汚染の原因となってしまっています。
計画換気の必要性への認識が不足しています。
④ダニ・カビ
高湿度で結露を起こしやすい住宅では、ダニ・カビが発生しやすくなってしまいます。ダニやカビによるアレルギーなど、健康に悪影響を与えています。
⑤体質の変化
アレルギー体質の人や化学物質に過敏な体質の人が増えています。またストレスなどの心理的要因などもシックハウス症候群の原因ひとつではないかと考えられています。
⑥日常生活用品
化粧品やタバコ、芳香剤、防虫剤、暖房器具などの日常生活用品から発生する化学物質も原因となります。
シックハウス症候群の症状は個人差が大きく、非常に多岐にわたります。また、不定愁訴と言われるような、本人にしか自覚できない症状が多く、自律神経失調症や更年期障害、風邪、精神疾患などと間違われてしまうこともよくあります。
はっきりとした症状を示さなかったり、次々と症状が移行していくことも多く、なんとなく調子が悪いなと思っていても、それがシックハウス症候群だと本人も気付かないことがよくあります。
もし下図のような症状があり、特に室内にいるときに症状が強く起こる場合には、一度シックハウス症候群を疑ってみるようにしましょう。
シックハウス症候群は複合的な要因が、複雑に絡み合って引き起こされるので、建物や建材だけに目を向けていては、問題の真の解決はできません。
現代社会では、室内空気汚染だけではなく、食品や日常生活用品、ストレスなどの心理的影響、大気汚染や水質汚染など様々なものが健康に悪影響を与えています。
「シックハウス」として建物だけに目を向けるのではなく、「シックライフ」として大きな視点で生活全体が病んでいる現状を捉えていかなければなりません。
シックハウスに関連する法規には、厚生労働省による室内空気質の指針値(ガイドライン)や国土交通省による建築基準法に基づくシックハウス対策などがあります。
室内空気汚染の低減化を促進し、快適で健康な室内空間を確保することを目的に、個別の揮発性有機化合物(VOC)に対して室内濃度指針値を設定しています。
ホルムアルデヒドの場合は短期間の曝露によって起こる毒性を指標に策定されています。それ以外の物質の場合は長期間の曝露によって起こる毒性を指標として策定されています。
個別化学物質の室内濃度指針値等 | ||||
揮発性有機化合物 | 各物質の 選定理由 |
毒性指標 | 室内濃度 指針値 |
設定日 |
---|---|---|---|---|
ホルムアルデヒド | ヒトの吸入曝露における鼻咽頭粘膜への刺激 | 100μg/m3 (0.08ppm) |
1997.6.13 | |
トルエン | (1) (2) |
ヒトの吸入曝露における神経行動機能および生殖発生への影響 | 260μg/m3 (0.07ppm) |
2000.6.26 |
キシレン | (1) (2) |
妊娠ラット吸入曝露における出生児の中枢神経系発達への影響 | 870μg/m3 (0.20ppm) |
2000.6.26 |
パラジクロロベンゼン | (1) (2) |
ピーグル犬経口曝露における肝臓および腎臓などへの影響 | 240μg/m3 (0.04ppm) |
2000.6.26 |
エチルベンゼン | (1) (2) (3) |
マウスおよびラット吸入曝露における肝臓および腎臓への影響 | 3800μg/m3 (0.88ppm) |
2000.12.15 |
スチレン | (1) (2) |
ラット吸入曝露における脳や肝臓への影響 | 220μg/m3 (0.05ppm) |
2000.12.15 |
クロルピリホス | (4) (5) |
母ラット経口曝露における新生児の神経発達への影響および新生児脳への形態学的影響 | 1μg/m3 (0.07ppb) 但し小児 の場合 0.1μg/m3 (0.007ppb) |
2000.12.15 |
フタル酸ジ-n-ブチル | (1) (3) (5) |
母ラット経口曝露における新生児の生殖器の構造異常などの影響 | 220μg/m3 (0.02ppm) |
2000.12.15 |
テトラデカン | (2) (6) |
C8-C16混合物のラット経口曝露における肝臓への影響 | 330μg/m3 (0.04ppm) |
2001.7.5 |
フタル酸ジ-2- エチルヘキシル | ラット経口曝露における精巣への病理組織学的影響 | 120μg/m3 (7.6ppb) |
2001.7.5 | |
ダイアジノン | (4) (5) |
ラット吸入曝露における血漿および赤血球コリンエステラーゼ活性などへの影響 | 0.29μg/m3 (0.02ppb) |
2001.7.5 |
アセトアルデヒド | (1) (2) |
ラットの経気道曝露における鼻腔嗅覚上皮への影響 | 48μg/m3 (0.03ppm) |
2002.1.22 |
フェノブカルブ | (3) (5) |
ラットの経口曝露におけるコリンエステラーゼ活性などへの影響 | 33μg/m3 (3.8ppb) |
2002.1.22 |
総揮発性有機化合物 | (1) (3) |
国内の室内VOC実態調査の結果から、合理的に達成可能な限り低い範囲で決定 | 暫定目標値 400μg/m3 |
2000.12.15 |